コイツ、俺の嫁候補。
「待て、縁!」



あたしを現実に引き戻したのは、肩で息をしながら追い掛けて来てくれた那央だった。


立ち止まると、ここが施設から少し離れた川沿いの道であることがわかった。

人はほとんど通らず、穏やかに流れる大きな川は夕陽でキラキラと輝いている。



「縁、ショックなのはわかるけど少し落ち着け」

「那央にはあたしの気持ちなんてわからないよ!」



宥めるように言う那央の手を振り払う。



「いつもたくさんの人に囲まれてて、順風満帆な那央には……!」



つい出てしまったあたしの声が、辺りに響き渡った。

那央の切なそうな顔が、涙で歪んでいく。



「皆、あたしから離れていっちゃうんだよ……」

「皆って?」

「お母さんも、おばあちゃんも……那央だってそうじゃない!」



唇を噛みしめて言わないように我慢するのに、それは止まってはくれなくて。



「遠くに行こうとしてるじゃん……ずっとそばにいるって言ったのに」



心の奥の奥でくすぶっていた本音を、ついに露わにしてしまった。

今は夢を応援したい気持ちよりも、離れたくない想いが上回ってしまっている。

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