コイツ、俺の嫁候補。
「……いいよ? 那央の好きなようにして」

「あのな……そういうこと言われるとヤバい」



珍しく顔を赤くする那央に、あたしはキョトンとしてしまう。

何がヤバいのかわからない……けど。

あたしの手に指を絡ませる手と、とてつもなく色気を放つ瞳に、ドキンと心臓が大きく跳ねる。



「大丈夫、優しくするから」

「……うん」



何度もキスされるうちに、怖さは次第になくなっていって。

裂けるような痛みも、二人がもっと深く繋がるためだと思えば耐えられた。


初めての感覚は、どれもが幸せで愛おしい。

それはきっと、那央が相手だからなんだと思う。


こんなに素敵な経験をしちゃったら、本当にもう二度と離れられないよ。

身体の距離じゃなく、心が。



「ずっと……そばにいて」



呼吸を乱しながら、熱に浮されたように無意識のうちに呟いていた。

那央は愛おしそうに目を細めると、あたしをきつく抱きしめて、甘く囁く。



「俺は縁だけのものだよ。心も身体も、全部──」



それは、ワガママなあたしにとって最上級の言葉。

彼をまるごと手に入れたようで、幸せが涙となって目尻からこぼれ落ちていった。


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