コイツ、俺の嫁候補。
どうやら那央はただ強引な人ではなく、“遠慮”という気遣いもちゃんと出来るようだ。

本当にお邪魔することにならなくてホッとした気持ちと、断ってしまって申し訳ない気持ちが入り混じる。



「じゃーまたな」

「あっ、うん……!」



複雑な心境でいるあたしに軽く片手を上げた彼は、拍子抜けするくらいあっさりと去っていく。

そのすらりとした後ろ姿をなんとなく眺めていると、途中で足を止め、くるりとこちらを振り向いた。



「縁のお好み焼きうまかったぜー」



子供みたいな無邪気な笑顔でそう言う那央に、思わず吹き出すあたし。



「たかがお好み焼きだってば!」

「あ、それ禁句」



赤みを増した夕陽に飲み込まれる路地裏に、あたし達の笑い声が響く。

なんでだろう。

初めて逢った時からそうだった。

那央といると、特別なことは何もしていないのに楽しくて、たくさん笑ってる自分がいる。



「気が合うって、こういうことなのか……」



思えば、気が合う男子なんていなかったかも。

そんな存在の友達が出来たことを密かに嬉しく思ったのは、あたしだけの秘密にしておこう。


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