コイツ、俺の嫁候補。
首根っこを掴まれて席へ戻される陸を不憫な目で見ていると、那央が再び席につくのであたしも座った。



「急に立ってどうしたの？」

「俺前少しだけ空手やってたから、ああやって向かってくる相手には自然と反応しちゃうんだよね」

「え、そうだったんだ……！」



空手をやってたなんて意外。結構頼もしいじゃない。

ちょっぴり感心していると、「それに」と言って那央が微笑む。



「女守るのは当然だろ」



“守る”って……あたしを？

今の陸の話で、あたしがどれだけ男勝りかわかったはずなのに、それでもそんなこと言ってくれるの？



「いくらお前がケンカ好きでも、絶対俺の方が強いから」

「ケンカが好きなわけじゃないっての！」



けけけ、と悪戯っ子みたいに笑う那央に頬を膨らませるあたし。だけど。

内心嬉しくて、胸はドキドキと弾んでいる。

こんなあたしも、本当は守られたいと思っていたんだと、今初めて気付いた。



ふと前を向くと、奈々ちゃんがどこか浮かない表情で何かを考え込んでいる様子。

それが少しだけ気になったけれど、「始めるぞ」という藤丸先輩の声で、あたしの意識は文化祭のことへと方向転換していた。




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