小春日和の恋
「俺なんか、部活の後輩にシューズをあげたくらいで。何も取られてねえ」

「なら、五十嵐が小野にジャージでも何でも貸してあげればいいじゃん。それならパンイチで帰らなくて済む」

 沙羅ちゃんが、五十嵐くんの鞄を叩く。

「誰が貸すかよ。パンイチで、恥ずかしい思いをして帰りやがれ!!」

 フンっと鼻を鳴らして、五十嵐くんが女子の輪にむかって睨みつけた。

「そういう態度が、女子たちのポイントをさげるのよ。モテたいなら気付きなさいよ」

 沙羅ちゃんが呆れた声をあげた。

 わたしは二人のやり取りが面白くて、クスクスと肩を揺らして笑った。

「なあ、日向。俺の制服からボタンが欲しいとか思わない? あと数年すれば、バスケのビック選手になってプレミアムになるかも……」

「そういう押し売り、やめなさい!」

 沙羅ちゃんが五十嵐くんの後頭部をバシンと叩いた。

「暁、ちょっと荷物見ててもらえるか?」

 女子たちに囲まれていた小野くんが、白シャツに体育着のハーフパンツの姿で私たちに近づいてきた。

「あ? 構わないけど……どうした?」

「ちょっと、校内に忘れ物してきた」

 小野くんが、紙袋に入った荷物をどさりと五十嵐くんの足元に置いていく。
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