小春日和の恋
「……てか、鞄は? そんな紙袋に荷物を入れんなよ」

「後輩に取られた。上履きも、体育館履きも……制服も」

 ちらりと小野くんの視線が、私に向く。

 約束してたボタンがあげられなくて、ごめん……と表情で訴えられた気がした。

「荷物、見ててやるから。さっさと忘れ物をとってこい」

「ああ、頼む」

 小野くんがわたしたちに背を向けて歩き出す。

「あ、ああっ! ちょっと待って。そういえば、和奏も教室に忘れ物したって言ってたのよ!! ちょうどいいから、一緒に行ってきなよ!!」

 沙羅ちゃんがニヤっと笑って、わたしの背中を叩いた。

「チャンス到来!! まだまだ諦めちゃ駄目だよ」

 沙羅ちゃんがウインクをして、わたしを小野くんのほうへと押し出した。







 静かすぎる校内を二人並んで歩く。

 忘れ物なんてしてない。沙羅ちゃんの言葉が脳内でコダマする。

 チラチラと横目で、小野くんの横顔を窺いながら、わたしは「忘れ物なんてしてない」という言い訳をいろいろと考えた。
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