小春日和の恋
 教室の手前にある男子トイレで小野くんが足を止めた。

 わたしも一緒に止まると、小野くんを見上げる。

「ボタン、無理だった」

「あ、うん。わかってた。多分、無理だろうなあって。校庭であれだけの女子に囲まれてたら、ボタンなんて一瞬で消えちゃうでしょ」

「ちょっと待ってて」と小野くんが言って、男子トイレへと姿を消した。

 忘れ物……は?

 もしかしてトイレに行きたかっただけ、とか。

 ガタガタンと物音がすると、小野くんがすぐに出てきた。

 腕には黒い何かを引っ掛けていた。

「ボタンは無理だったけど……」と小野くんが言いながら、学ランの上着を広げると、私の肩に引っ掛けた。

 ほわっと小野くんの香りが、鼻についた。

「小野くんの学ラン? いいの?」

「ボタンは全部取られたけど……上着は死守した」

「……死守のために男子トイレに隠したの?」

「まあ、そんなとこ」

 小野くんが首のうしろをかいて、少し恥ずかしそうな表情になった。

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