小春日和の恋
『日向は何が欲しい?』
『小野くんの心』

 バレンタインデーの日に交わした会話が脳裏に蘇る。

 ほんの冗談のつもりだった。

 欲しくても、手に入らないモノだと知っていたから言葉にしたのに。

『冗談』だとわかる言葉だから……でも、一番欲しいモノでもある言葉だった。

「うそ……これは、冗談? 本気?」

 メモ紙を持っている手が震える。

 反対の手で、髪をかきあげてから、熱を帯びる頬を覆った。

 家に帰ってからじゃ……小野くんの本心が聞けないじゃない。

 これじゃあ、確認できない。

 卒業して別れるわたしへのお祝いの言葉?

 もう会う機会がないから、書いた言葉? 最後くらい綺麗な形で終わろう……みたいな。

 それとも……高校生になってもわたしと小野くんには繋がりがあるよっていうこと?

 わからない。わからないよ。

 スマホで電話?

「できるわけないじゃない!!」

 わたしはメモ紙を持ったまま、身体を小さく丸めた。

 一度も小野くんに電話したことなのに。メールだって無いのに。

 メモに書かれていた言葉の真意はなに? なんて電話で聞けない。

「ズルい、ズルいよ。小野くん……。これじゃあ、わたしは小野くんを忘れられない」

 諦めて、『次の恋』ができないじゃない――。

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