小春日和の恋
「あ、いえ。大丈夫です」

 上から大きな手が降りてきた。ボールを受け取るために、バスケ部員が手を伸ばしたのだろう。

 左手の中指と薬指にテーピングがしてあった。右手の小指にも、テーピング。

 そうとう練習をしているみたい。痛々しい指が、練習の過酷さを物語っている。

「日向?」

 穏やかで低い声に、名前を呼ばれる。わたしはハッとして、顔をあげた。

「……小野くん」

「やっぱ、日向か」

 小野くんが納得したようにコクンと頭を小さく上下させると、バスケのボールをひょいっと拾い上げた。

 背筋を伸ばす小野くんに、大きな影ができる。その影にわたしの身体がすっぽりと入った。

「あ、練習試合」とわたしは呟き、今日のバスケ部の予定を思い出す。

 M高との練習試合があるって、予定表に書いてあった。

 わたしも立ち上がると、1年ぶりに見る小野くんの姿を目にうつした。

「身長、伸びたね」

 中学のときよりも、さらに背が高くなった小野くんを見上げる。

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