小春日和の恋
 ズルいな。わたしの恋の時計は、中3の卒業式で止まったまま……動かない。

 小野くんはどう? 動いてる? 

「あいつ、M高のエースだろ。名前は……」

 バスケ部の部長・山城祐樹が顎に手をおいて、近づいてきた。

「『小野 春陽』です。中学でもバスケのエースでしたよ」

「日向とオナ中かあ」

 山城先輩が、じっと小野くんの背中を見送り、「もしかしてアレが、忘れられない相手とか?」と呟いた。

「え?」

「去年の夏の合宿で……」と山城先輩が言葉を濁す。

 満点の星空の下で、告白された。

『忘れられないんです、どうしても』

 自分の言った言葉が蘇ると、わたしは苦笑した。

 はい、そうです……と素直に頷けないのはどうしてだろう?

 ちらっと小野くんと隣にいる女子を見て、わたしはあえて視界から二人を遠ざけた。

 気になる。でも見たくない。

 小野くんにとって、あのメモ紙に書かれた言葉はどんな意味をもっていたのだろう?

 わたしの心は、あの文字に縛られたまま、動けない。







「……なあ、日向。これって一種の詐欺だよな?」

 練習試合の真っ最中。わたしの後ろの席を陣どり、頬杖をついて不満を垂れ流していた五十嵐くんの語りが一旦、質問という形で区切りがついた。

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