小春日和の恋
 ……動けない。

「ああ……わたしって馬鹿。こんなんだから、部長にも見破られるんだ」

 きっとバレてる。忘れられない人が小野くんだって。

 さっきは曖昧に誤魔化したつもり。でも体育館を飛びだすなんて……、これでは「そうです」と言ってるのも同然だ。

「暁に何か言われて体育館を飛び出したのかと思ったけど」

 階段の手すり部分から、ひょいっと影が姿を現して、わたしは口をぽっかりと開けてしまう。

「小野くん……」と小さく呟き、あわてて立ちあがった。

 蹲ってて、皺くちゃになっているスカートの裾をただすと、髪の毛もついでに整えた。

『俺の心をあげた』

 五十嵐くんの言葉がリピートされる。

 小野くんは五十嵐くんに、そう話した。誰のことを言っているの?

 聞きたいのに、喉の奥で何かに言葉が引っ掛かって、出てこない。

 言葉のかわりに出て来たのは、大粒の涙だった。

「お……の、くん。ふぇ」と可愛くもない嗚咽が漏れ、ぼろぼろと落ちてくる涙を両手で隠した。

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