小春日和の恋
「ごめっ……。すぐに落ちつくから」

 はあ、と息を吐いてから、大きく深呼吸を繰り返す。

 ぼろぼろと落ちる涙を手の甲で拭き取り、乱れた呼吸を整えた。

 肩に置かれている小野くんの手が目に入った。

 手の甲が真っ赤に腫れあがっている。
 
 私は小野くんの手を触り、「これ、どうしたの?」と質問した。

「試合中に、ちょっとぶつけただけ」

 小野くんの視線が外れ、わたしの手の中から小野くんの手が撤退した。

「たいしたことないから。いつものことだし。それより泣いた理由は?」

「え?」と小野くんの切り返してきた質問に、今度はわたしが視線を逸らした。

「ごめん。まだ覚悟が……」

 わたしは胸元を手で押さえると、苦笑した。

「きちんと話さなきゃいけないのはわかっているの。話すっているより、聞く……なんだろうけど。でもその覚悟ができてない。今すぐには言えないの。だけど今、言わないと、小野くんは帰っちゃうんだよね。また、会えなくなる」

 会えなくなるのなら、今話すべきなのかな?
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