小春日和の恋
 バレンタインで持ちきれないほどチョコを貰うなんて……そりゃ、私の小さなチョコなんて忘れちゃうよね。

 わたしも五十嵐くんと同様に、苦笑を浮かべると「ははっ」と乾いた笑いが自然と出た。

「なあ、日向あぁ……今年は男バスのマネからチョコはないのぉ?」

 五十嵐君が、似合いもしない上目づかいで聞いてくる。

 180センチ近くある大男が、甘えた仕草をしても可愛くない。

「もう男バスのマネじゃないし、五十嵐くんだって部活引退してるから」

「ええ!? 毎年、男バスのマネから貰えるチョコが唯一、俺のチョコだったのにぃ」

 五十嵐くんががっくりと肩を落とす。

「チョコが食いたいなら、やるけど?」と、隣に立っている小野くんがさらりと口を開く。

 喉仏にかかる低い声を聞くだけで、胸の奥がキューっと締めつけられて苦しくなる。

 望みがないと知って一年が過ぎようとしているのに、まだ小野くんが好きだなんて……情けなさすぎる!!

「ハル、そういう問題じゃねえよ!」

「どういう問題? 食いたいんだろ、チョコ。たくさんあるし、食いたいならやる」

「だからぁ、そのチョコはお前が貰ったチョコだろうが!! 俺は、俺のために用意してくれたチョコがいいって言ってんのっ」

 フンっと五十嵐くんは荒々しい鼻息をふきだした。
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