小春日和の恋
「なあ、日向っ!」と、五十嵐くんが手に持っているチョコを全部廊下に落とすと、わたしの肩を掴んで、「鞄の中に残ってないか? 誰かに渡す予定だったチョコとか。ギリチョコの余りとか。何でもいいから、俺……チョコが食いてぇ」と頭を垂れた。

「わたし、今年は一個も持ってきてないの」

 ごめん、と五十嵐くんの肩をポンっと叩いた。

 去年の惨劇を引き摺ってて。今年は、バレンタインに何もする気が起きなかったんだよね。

 小野と一緒に過ごせる最後の機会だからこそ、もう一度チャレンジする……っていう考えが無かったわけじゃない。

 でも、またポケットに入れられたまま、立ち去られて、答えを貰えないのは辛いから。

「だから食いたいなら、やるって……」

 小野くんが廊下に落ちた箱を一つ拾うと、五十嵐くんの前に差し出した。

「……ほんとお前、なんもわかってねえなあ。これだからバスケ馬鹿は困るっつうの。今日、この日がどんな日かわかってるのか?」

「2月14日。平日だから、学校がある。登校して、授業を受けた。暁が久々に男バスに顔を出そうって言うから、体育館に向かっている最中だが……」

 小野くんが小首を傾げた。他に何かあったかな?と言わんばかりの表情だ。

「ほんっっとにお前はぁ……。なんでコイツがモテるかなあ!? 鈍感にも程があるだろ。なあ、今日が男にとってどんだけ重要な日か、日向も教えてやれよ!!」

「え? ええっ!? いや、わたしは……」

 いきなりの五十嵐くんの無茶フリに、わたしは苦笑を浮かべる。
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