小春日和の恋
 五十嵐くんが、男にとって重要な日と言っていたように、女にとっても重要な日だ。

 わたしは去年、その重要な日に小野くんにチョコを渡している。

 渡した本人を目の前に、バレンタインデーがどういう日かについて語るなんて出来ない。

「私立のお嬢様学校に受かった日向の口から、教えてやれって!! この鈍感男にさ」

 頼むよ、と言わんばかりに五十嵐くんがわたしの背中を叩く。

「どこの高校に行くかなんて関係ないと思うけど……」

 わたしはそろりそろりと、五十嵐くんから距離をあける。

 これ以上、この場には居られない。

「きっと五十嵐くんもチョコ貰えるよ。なんて言ったって中学最後のバレンタインなんだから。ね、ハッピーバレンタインっ!!」

 言い逃げ同然で、わたしは廊下を小走りで進みだす。

 もうこれ以上、五十嵐くんと小野くんの会話の中にはいられない。

 私の口から、今日がどういう日か、小野くんに説明できないし、五十嵐くんの説明を聞いて理解する小野くんの姿も見たくない。

 バレンタインの意味を知らなかったのなら、去年の小野くんの普通すぎる態度に、合点がいく。

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