小春日和の恋
 ただお菓子を、同じ部活のマネージャーから貰った……程度の認識だったとしたなら……。そりゃ、なんの返答もあるわけがない。

 何か返答があると期待していたわたしが、一人で盛り上がっていただけのこと。

 一年もたった今、バレンタインデーに貰うチョコの意味を知った小野くんの理解した表情を目の当たりになんて出来ない。

 恥ずかしくて、どうにかなりそうだ。

 わたしは自分の教室に戻ると教室の扉に背中をぴたりとつけた。

 乱れた呼吸を、深呼吸で整えると、胸に手をおく。

 小野くんが理解してなければいいと、願う。

 理解しても、去年の出来事を忘れて居てくれればいいと思う。

 チョコを貰った記憶が残っていたとしても、チョコをあげた日が、バレンタインデーだったかどうか覚えてなければいいと思う。

ガラリと教卓側の扉が開くと同時に「日向」と低い声で呼ばれた。

「ひゃああぁ!!」とわたしは思わず、声をあげて身を屈めた。

 ちらりと横目で教卓側の扉を見やれば、チョコの箱を全く持っていない小野くんが立っている。

 去年の出来事を、覚えていたのだろうか? 理解してしまったのだろうか?

 わたしが小野くんを好きだと知られてしまったのだろうか?

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