桜が咲く頃～初戀～
彩未はよっぽどデパートの屋上での戦いに勝った事が嬉しかったらしい。助手席で身振り手振りを大袈裟な程付けて話す彩未を時折シートベルトが押さえつけていて苦しそうにも見えている。

圭亮はそんな彩未に話を振りかけられる度に相槌や笑い答えていた。

そうしているうちに、おばぁちゃんの家に帰りついた。あっという間で短く感じられた道のりだった。


紀子は圭亮に夕食を誘ったけれど、帰郷してから1度も実家で食事をしていないからと、礼儀正しく笑顔で答えた圭亮に紀子は残念そうに。


『そうね』

と頷くと

『百合子ちゃんにもよろしく伝えてね〜』

とニコニコしながら圭亮を見送った。

風がますます冷たい空気を作りひんやり夜を冷やして行った。

圭亮の小さくなる背中は少し寂しさを帯びていて香奈は切なくなった。


春はまだ来ないのか？と遠くの空を見上げた香奈はあの、桜の樹に想いを投げた。


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