桜が咲く頃~初戀~
『彩未。邪魔したあかんでしょ?』

その時香奈を探して縁側に圭亮と香奈が居るのを見つけた彩未は嬉しくなり少し開けて覗いていた襖を更に開けようとして紀子に止められた。

『はぁい』

彩未はそうつまらなそうに言うと居間にある火鉢の前に座り手のひらをかざした。


少し不貞腐れている彩未のそんな姿を見ながら紀子は笑うと。2人の居る縁側が見える襖を微笑みながらそっと閉めた。




『俺な。香奈ちゃんにちゃんと今日、今聞いて貰いたい想いがある』


そう圭亮は言うと「こほん」と1つ咳払いして自分の緊張を隠した。


香菜はそんな圭亮が何処かの偉い人が何かを発表する前の仕草に似ていて笑いそうになったけれど。圭亮の真剣な面持ちに身を引き締めた。


数秒間が数十分の長さに感じるのはこんな静かな夜だからだろうと2人は思っていた。



『綾香の事は香奈ちゃんも知っているでしょ?』



圭亮は目の先の山にある桜の樹を静かに目で探しながら香奈に語りかける様な静かな声で言った。


『うん。知ってる』


香奈はこれから圭亮が何を言うのか?左胸の鼓動がドキドキして隣にいる圭亮に聞かれてしまうのでは無いかと思うと落ち着かなくなった。

『綾香は、この村で一緒に育って来た幼馴染や。小さい頃から気の強さでは誰も敵わ無いけど。本当は凄い弱くて寂しがりなんよ』


圭亮はそう話すと1度香奈の俯いてじっと息を潜めて動かない顔を覗いた。


まだ、春には遠いかの様に冷たい風がそんな2人の間を吹き抜け香菜は身震いした。


『俺が東京に出て来てしばらくした頃。綾香が上京して来て同じ里で育った者同士よく会うようになった。気が付いたら綾香はほとんどの時間俺の傍にいて、そうしているうちにズルズルと時間任せに一緒に暮らし始めた。多分、それは俺には大学を卒業する迄の間だだと。そう思っとったんは俺だけやったけど』


そこまで話すと圭亮は更に俯いて自分の足元を見た。

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