桜が咲く頃~初戀~
まだ、泣きやみそうに無い彩未は香奈を「何とかして」と言わんばかりに上目遣いで見詰めていた。


『彩未。また来られるやんか』

そう言うと香奈は彩未の頭を優しく撫でた。彩未は悔しそうに唇をへの字に曲げて下を向いて今度は声を出して泣き出した。

『だって。今日はおばぁちゃんのお祝いなんやろ?彩未もお祝いしたいねん。マクド行ってとか。デパート行ってとか言わへんし。大根も、畑のお野菜も。お魚も嫌い言わへんし。なぁ…あかん?』


そう言う彩未に根負けした香奈は紀子に言った。


『なぁ。お母さん。彩未のお世話するし。二、三日はあかんかな?』


そうして彩未の背の高さ迄はさ屈むと香奈は彩未の肩を抱いた。その初めて見るであろう香奈の妹への優しさが嬉しいと思った紀子も流石に根負けしてしまい諦めた風を装って


『彩未。ちゃんとお姉ちゃんの言う事聞いていられる?』

と彩未の顔を挟んだ両手を離しながら聞いた


『はいっ!』


彩未は大きな声でまだ涙目のまま返事した。

『学校、お休みしてるけど、持って来ている毎日ドリルキチンとする?』

紀子は少し怒った風を装ってしかめっ面をしながら彩に聞いた


『はいっ!』


とまた、彩未は真剣な顔をして叫ぶ様に答えた。


『夜は、ちゃんと9時には寝てお姉ちゃんと朝早く一緒に起きて夜更かししない?』


紀子は彩未の返事の仕方がおもしろくなって悪戯に微笑みながら更に聞くと


『はいっ!』

と、彩みはまた真剣な眼差しでしっかり大きな声で紀子を見ながら返事をした。香奈はその二人のやり取りを面白いと思い出して笑いが止まらなくなった。


彩未は何故香奈が笑っているのか?不思議な気持ちで眺めた。

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