桜が咲く頃~初戀~
敬涼は柔らかくてとてもいい匂いがした

『あはは。うっとりしてる』

そう言って綾香はさっき迄の苦笑いの様な緊張した顔を緩めてとても優しい顔をして敬涼を見ていた


香奈も敬涼の顔を覗き込むと唇の両端を上に上げて目を細めた。子供って大人になる迄の過程で色んな顔になり成長して行く。しかし、幼い時には皆どの子供もこんな感じなのだろう?と思うと彩未がいる方へ目を向けた


彩未は土間へ降りてきており勝手口から顔を覗かせてこちらを見ていたが、おばぁちゃんに何か言われたのか?後ろを振り向いて『はぁい』と言って顔を引っ込めると勝手口のドアをパタンと閉めた


『香奈は陰気だけど。優しいんだ』

そう綾香は言って両手を出し敬涼を背中から抱くと香奈から自分の胸に引き寄せ抱き直し敬涼の頭を優しく2回撫でた。


『私、あんまり香奈の事知らない。圭がどうして香奈なんか好きなんかも良く分からない。けど優しいんだね』

そう綾香は言うと香奈に母親の柔らかくていい顔をした

『私、優しくないよ』

香奈がそう言って少し俯いて呟くと


『それは、自分で分かるものでも無いんじゃない?まぁ、私は香奈がずっと嫌いだったから優しいとか可愛いとか思って無いよ。反対に可哀想だと同情してた所がある。けどさっきの敬涼の顔を見ていたら香奈は可哀想でも陰気でも無いって思った』

そう言って可笑しそうに含み笑いをする綾香に今は酷い人だとは香奈は思えなかった。そう言う綾香の言葉の端から悲しい気持ちが伝わったからだ


『私ってさ。凄くこう意地悪でキツい所あるし。こうだ!こうしたい!って思うと自分以外の人の気持ち何かどうでもいいとか思うんだよね。思い込みも励しいし。相手の気持ちより自分の気持ちが最優先で旦那にも何時も言われるんだ。そうゆう所直せって。でも敬涼が生まれてくれてからちょっと違う大切に守らないと駄目だなって』

と言って『今更かぁあはは』と大きな声で笑った

『圭が東京に戻る迄にちゃん気持ち伝えなよ』

と、綾香は柔らかい顔をして微笑み腕に抱いている敬涼の顔を見て「ねー」っと言った。敬涼はそれが嬉しかったのか?「ねー」と可愛らしく右に頭を大袈裟に傾けて綾香の真似をして言った





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