桜が咲く頃~初戀~
雪
朝早くに伊藤のおばぁちゃんから圭亮に電話が掛かってきた。
『圭君。おはよう。バァやけんど起きとったか?』
そう家の固定電話の子機から聞こえるおばぁちゃんの声に寝ぼけながら目を擦り
『あぁ〜。うん今』
そう答えた。百合子から先程電話だと起こされたばかりだったのだ。
『どうしたんね?バァちゃん』
そう圭亮が聞くとおばぁちゃんは
『圭君は何時東京戻るんな?』
と周りの誰かに聞かれては不味いのか?電話口でひそひそとした声で聞いてきた。
『あぁ、明後日の8時30分の汽車に乗って行くけど。何?』
圭亮は受話器を右手に持ち左手で寝起きの頭をくしゃくしゃと掻き回してからそのまま顔を撫で下ろして右肩を揉んだ。
『そうか。あのな、今日は香奈があの桜の樹ん所行くからな。圭君会いに行っといてくれんかね?香奈は自分からはなぁんも言わんし。言いとうても言えん事もあるからな。圭君が東京行ってしもたら次どうなるかわからんで。バァはそう長く生きとらんでな。早う見たいんや、、まぁそう言う事で。頼んだで』
そう一気におばぁちゃんは言うだけ言って電話を切ってしまった。