桜が咲く頃~初戀~



香奈の母伊藤紀子は山口良幸と出会った時はまだ学生だった。紀子は一年浪人して医大に入学したので大学三年生だった。

良幸は大学の講師ではあったが紀子とはキャンパスでは出会っていなかった。あれは紀子が里帰りした春の暖かい日だった。旅行に来ていた良幸に出会ったのだ。大学が同じである事から話が合い、父一郎の希望で紀子の家で一泊したのだった。

当時は伊藤一郎も元気に生存しており、気持ちの良い良幸を気に入り夜遅くまでどぶ酒を飲み交わした。良幸は一郎より酒が弱いのかすぐに酔い潰れ大鼾をかいて寝てしまい紀子は何だかバツが悪くなり一睡も出来ずに朝を迎える始末だった。

そんな事から大阪に帰ってから学内で再会し急速に2人は恋人関係になっていった。良幸に家族がいる事を後から知った紀子は妊娠していた為にそれを告げないまま大学に休学届けを書いて帰郷した。

1人で産んで育てて行くと言う気持ちは妊娠を知った瞬間から強く思っていたからだ。

それ以来2人は一度も会うこと無かった。


そして数ヶ月後にまるで鞠のようにまん丸い顔の色の白い可愛い香奈が生まれた。



紀子は香奈をしばらく田舎で育てたが香奈を保育園に預けられるようになってから大阪に帰り父一郎の助けで復学したのだ。

紀子はこれ以上の迷惑を両親にかけられないと必死に勉強して医師免許を取得したのだった。



香奈が生まれて八年経ったある暑い日良幸は紀子に再会した。紀子が香奈を産んでいた事をその時良幸は知り自分のしでかした罪に肩を酷く落としたのだった。



良幸は紀子に別れを告げられた一年後に離婚をしていた。元々上手く行っていなかったのもあったので、奥さんが家をすんなり出て行っていたのだ。

その為、良幸が紀子と香奈に会いに頻繁に来るようになっていた。



香奈は八歳の頃から良幸がよく家に遊びに来るのを不思議に思ったがすぐに懐いた。

何時も優しくて、香奈を凄く可愛がってくれているのが香奈は本当に嬉しかった。

それが紀子と結婚した事から香奈は良幸が嫌いになった。母親を奪われた気持ちが香奈の胸を支配していたからだ。


「お父さんなんかいらない」


そう思いながら、家族3人の生活が始まる事になるとはその時は思いもしなかった。
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