桜が咲く頃~初戀~
圭亮は痩せているのに良く食べた。2人前はあるオムライスをペロリと食べたのにまだ足りないらしい。香奈はそんな大きなオムライスの卵を巻くのに大変だった。フライパンから落としそうになって圭亮に代わって貰ったのだった。


圭亮は東京に居る時レストランで働いていたらしく、なかなか手際良く卵を巻いてお皿に移した。

『ふわふわやねぇ。圭亮君すごいなぁ』

そう言いながら香奈はオムライスのお皿をテーブルに並べた。

圭亮は満更でもないかの様に笑った。

圭亮は大学に行く相談をおばぁちゃんにした以来久しぶりにこのテーブルの丸椅子に腰掛けた。

ー俺は井の中の蛙やないよー


そう心が呟いた。

『頂きます』


香奈はおばぁちゃんが居ないこのテーブルに圭亮がいる事で寂しく無かったしとても嬉しいと思った。


『どうぞお上り下さい』

そう何時もおばぁちゃんが言ってくれる様に香奈は圭亮に言った後、小さく肩をすぼめてから微笑んだ。




食べ終わると圭亮は一度実家に帰って両親に顔を見せたらまた戻って来ると言って帰って行った。


香奈は1人になった。

やっぱり寂しいなぁと思いながらお気に入りの縁側に腰掛けてミヤベミユキが書いたサスペンスを手に取ると栞から開いて読み始めた。もう何度も読んでいるから内容はよくわかる。香奈の一番のお気に入りだ。それなのに今は集中して読めないでいる。

朝からの出来事やおばぁちゃんの病気がどうなっているのか?さっきまで一緒にいた圭亮もいない。香奈はポッカリ空いた心の隙間をどうやって埋めるかを考えていた。

ー人は1人では生きて行けないんだ1人だと心細いからー


縁側から見える山を見て香奈は思った。



山は少しづつではあるけれど緑の合間に新しい芽が薄色のぴんくの模様を描いていた。


しばらくその山を見ていた香奈は自分の部屋に行くとバックの奥に手を入れた。
そしてそれに電源を入れた。

画面には《圏外》の文字が出ていた。

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