桜が咲く頃～初戀～

香奈は縁側から跳ね起きると急いで居間にある黒電話の受話器を右手で掴むと耳に当てた。

『香奈ちゃん常なけんど、バァちゃんな検査入院になったんよ。入院の荷物は念の為言うて持ってきとるけんな用意はせんでかまんのよ。香奈ちゃん今晩寂しかったらおばちゃんく来んね？』


常ちゃんは一気に言って香奈の返事を待った。香奈の悪い不安が胸を押さえ付けたかの様に息が苦しくなって来た香奈はそのまま受話器を持って動けなくなった。

香奈の様子がおかしくなったのに気が付いた圭亮は慌てて香奈に駆け寄り背中を抱きとめた。


『香奈ちゃんどうしたん？』

香奈は急に息をヒュウヒュウと鳴らして苦しみ出した。圭亮は側にあったスーパーのビニール袋を香奈の口に被せると背中を叩いたり摩ったりした。暫くそうしていると香奈の息は静かに音を立てて落ち着いた。

よっぽど苦しかったのか香奈の目からは大粒の涙がポロポロと零れて止まらなくっていた。