桜が咲く頃~初戀~
『ごめん、香奈ちゃんの不安な顔みてたら…』
そう言いながら圭亮はおばぁちゃんの居る病室のドアを右手ですべらせて半分程静かに開けた。その圭亮の肩越しに背伸びをして中を覗いた香奈は身体の力が少し抜けた風に息をした。
『バァちゃん、調子はどうね?』
圭亮はおばぁちゃんの窓側のベットに近づいた。おばぁちゃんはベットの上にちんまり
と正座をして座り耳にイヤフォンを掛けテレビを観ながら何か白い木綿の糸で編んでいた。
『バァちゃん何作ってんの?』
香奈はそんなおばぁちゃんの左側に座り病院に来るまでの自分の精神状態を悟られない様に明るく笑って訪ねた。
『あぁ香奈。圭くんも来てくれたんな』
おばぁちゃんは耳からテレビのイヤフォンを外しながらシワシワになった顔をもっとシワシワにして嬉しそうに笑った。そして手に持っている編みかけの物を香奈に正座している太股に広げて見せた。
『香奈見てみ。ほれ、あんたの春用の帽子作っとるんよ。今の若いがぁにはどんな形がえいんか解らんけんどな。ここに居てたら暇やしな』
そう言ってからまだ半分位しか編めて無い帽子を香奈に被せた。