桜が咲く頃~初戀~
おばあちゃんはまた窓を少し閉めてから話をし始めた。


『亡くなった桜子はな。まだ2月やと言うのにな、右の手の中に桜の花弁を1枚握っておったんよ。弟はその花弁を持ってあの場所に行ってな。桜の樹の元に埋めたんと。桜子が大切にしていた桜の鈴の根付と一緒にな。15やで、香奈分かるか?血の繋がらんとしも差ほど離れとらん姉弟や。毎日一緒おるんやで何時から2人はお互いに恋心を抱いておったんよ。何も話さんでも分かるしな、そんな気持ちは。弟はその後村からおらんようになった。しばらくは村総出で探したんやけどとうとう見つからなんだ。ただな不思議な事にな。それを堺にあの桜の樹の場所で奇跡が起きる様になったんと。あそこに行った気持ちの綺麗いな子には奇跡が起こるんやて。バァはじいじぃちゃんと出会えた奇跡をもろうた。香奈もあの樹によばれたんかもしれんねぇ』


そう一気に話したおばあちゃんは一瞬微笑んで香奈を見た。


『香奈は幸せに必ずなるねぇ』


香奈は胸が少し熱くなった。


『それと紀子の事になるけどな。紀子もあの桜の樹の下で嫌か分からんが香奈のお父さんと出会ったんよ。同じ大学ゆうても広い人はいっぱいいとる。なから2人はあの桜の樹の元で出会ったんが初めてなんよ。香奈、分かるやろ?人は人と出逢うっうのは奇跡な事が。あれは奇跡なんよ。さぁ撒きの火も切れて来たし湯が冷めんうちにそろそろ出ろうかねぇ』


おばあちゃんはそう言って風呂を上がった、香奈はその話を頭の中で何度も理解しようと繰り返していた。
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