桜が咲く頃~初戀~
根付け
お婆ちゃんはベッドの上にちんまりと座りなおして香奈の不安気な目を見た。

「香奈は、桜子の何が知りたいのんや?」

そう聞かれた香奈は。圭亮をチラリと見て俯いた。そんな香奈の仕草を見たお婆ちゃんは皺を寄せた顔を柔らかい微笑みに変えて頷いた。

「何処から話せばいいかのぅ。桜子が何時も血の繋がらない弟と一緒やったって事は話したから知っとるな。まぁ、弟ってもな。赤子の頃に拾われた子やったらしいわ。あの桜の樹のある場所で青い半纏に包まれてな。右手にしっかりと握っていた物が、桜子の大切にしとった桜の鈴の根付けやったそうな。」


お婆ちゃんはそこまで話すと、窓の外の青い空を見上げて「気持ちいいなぁ」と呟いた。


香奈も、お婆ちゃんの見上げる空を見た。

風が優しく景色に溶けて新緑を静かに揺らしていた。


そんな何気無い少しづつ暖かくなる風が見えた様に感じた時。香奈は桜子の気持ちが少し見えた気がして、ハッとした。

「桜子はな。綺麗なだけじゃ無く聡明さも持っておったんよ」

お婆ちゃんはベッドから「よいしょと」ゆっくり降りると、香奈の側に小さな少し曲がった身体を寄せて来た。

その、お婆ちゃんの温かい体温が香奈には気持ちが良かった。

「拾われ子の弟はなっ。何時しか桜子のそんな聡明な美しさに引かれていったんよ。物静かな弟は何ぁんも言わずに桜子の背中を支えていたんよ。あっ。心もな。ある日、あの桜の樹の場所で、何時もの様に2人して、青い空と、広い海を眺めておったんや。」
 
お婆ちゃんはそう話すと、少し照れた赤い顔してはにかんだ様に微笑み、香奈の背中を優しく擦った。
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