桜が咲く頃~初戀~
「お姉ちゃん。彩未な、お腹空いてん」

彩未は何だか情けない顏で呟いて香奈と繋いでいた手を離した。


「本当やなぁ。俺も、お腹空いたなぁ」



圭亮までもが、お腹を擦りながら情けない顏になって言った。

香奈は何だか、2人のその姿に思わず微笑みを浮かべてしまった後に気持ちの中が狭くなった様に小さく縮んで、ハッとした。

胸に手を当て静かに気づく。


香奈は、桜子の気持ちが解ってしまった気がした。

きっと、桜子は相手に対するこんな愛しいと思う切なさを短い命を繋ぐ大切な物と思っていたのかも知れないと。

香奈の言葉を待っている2人を愛しいと感じている事に戸惑っていた。


「お姉ちゃん。彩未マクド行きたい」


彩未の、空腹で切ない気持ちとは違うんだろかと思ってみたら自然に優しい気持ちになれ笑い;たくなった。

「マクドかぁ。あったかなぁ?」

香奈は彩未の背の高さまでしゃがんで優しく頭を撫でていた。




人口三万人足らずの県には全国的にあるファーストフードの店は無いと聞いていたが、病院の三軒隣のショツピングセンターの二階にマクドナルドがあった。


香奈は、お婆ちゃんの家に来てから、一度も来た事が無かったから知らなかった。

久しぶりに人混みの中に入るのには抵抗を感じていたものの、前程の緊張感は無かった。

彩未に手をグイグイ引っ張られながら香奈は少しワクワクしている自分に驚いていた。

「お姉ちゃん!彩未なハッピーセット!」

嬉しそうに香奈を見上げて言った彩未の明るい顏が香奈には眩しかった。

-多分、小さい頃はこんな風に私だって笑っていたんだ-

「香奈ちゃん。俺ビッグマックセットぉ!」

圭亮までもが嬉しそうに笑っていた。

圭亮のその笑うと出来る目尻の皺と綺麗に揃った白い歯が香奈は好きだと思った。





3人で過ごす時間の中で、香奈は自分を見つけられそうな気持ちになっていた。

お婆ちゃんのあの大阪の家に香奈を迎えに来た日が思い出された。


「なぁんも心配せんでいい」


その、お婆ちゃんの言葉に香奈は気持ちを委ねで過ごして来た今は、それが良かったと思っている

「おねぇちゃんてばぁ!」

彩未の高い可愛声が耳に入り、香奈は我に帰った。

「ん?」


彩未はじれったそうにもじもじして香奈を見た。


「あぁ。彩未ちゃんは屋上で遊びたいんだって」

圭亮が彩未を優しく見て頷いた。

「俺も、屋上で遊びたいな」

圭亮の少し照れくさそうな顔に香奈は胸が小さく縮んでしまった。

何度、胸が縮気む持ちになれば良いのかが分からないと思いながら

「いいよっ」


それだけ言うと香奈はテーブルの上のゴミを片付け始めた。


「やったぁ!」


彩未と、圭亮の重なり合う声が香奈を嬉しい気持ちにさせた。




デパートの屋上で遊んだのは何時だったか?


香奈は遠い思い出を探した。



【命の前に大切にしている物】それが風太の大切な根付けなら。


香奈には何があるんだろ。

そんな事を少し香奈は考えていた。
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