桜が咲く頃~初戀~
寂しさ
雄一に綾香の名前を出された圭亮は苦笑いしながら少しバツの悪くなった顔で答えた


『2年前に別れた』

雄一は汗で濡れた短髪の髪の毛をくしゃくしゃに掻き回し

『知っとった。で、綾香は何処におるんな?今は。圭亮知らんのか?』

と言いながら抱き抱えているパンダの着ぐるみの頭を両手で外側に向けてくるっと回して持ち替え左の脇に挟んで持ち替えた。

圭亮は頷いて

『知らん…』

と言ってまた、香奈の方を見た。

香奈は、少し不安な面持ちで彩未と手を繋ぎこちらを見ていた。急に振り向いた圭亮から視線を外すと直ぐに屋上から見える少しは暖かい日差しはあるけれどまだ、寒々とした空を見上げた。

圭亮はそんな香奈から目を離さずに見ていたが、急に胸の中を突き上げる寂しさを感じ身震いをした。


『綾香は…あれから1度も見てないな』


雄一も圭亮の見詰める先にいる香奈の横顔を見ていた


『圭が、あの子好きなんは村の皆知っとったで、昔から。勿論、綾香もな。圭が東京行った後を追いかけて綾香も村出て行くって皆に言って回っとった。反対する者がほとんどやったけどな。綾香が圭と暮らし出したって聞いた時はびっくりしたけんど、まぁ、長く続かんとは俺は思っとった。圭があの子にずっと付き回っとったし』


と言いながら最後はアハハと雄一は笑って、もう1度癖なのか髪の毛をくしゃくしゃと掻き回してすぐ真剣な顔に戻った。


『圭、俺、これ脱いでくるからちょっと待ってろや』

雄一はそう言うと後ろの端に建ててあるプレハブの事務所らしき建物に入って行った。
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