ストレイ・キャット☆シュ-ティング・スタ-
 脳血管造影アンギオ検査。
 その当日、ぼくはストレッチャ−に乗せられて、ちいさなオペ室に入る。左腕には点滴が施され、下着を着けないでオペ時に着用するガウンのような物を裸の上に着ていた。


 本番のオペでは無かったが、やはり緊張するものだ。しかしながら、初めて受ける重要な検査に、少しの好奇心もあった。
 左足付け根にチクリと痛みが走る。局部麻酔。数分の間にメスが入れられて、身体の中にカテ−テルが投入される。全くといっていいほど痛みや違和感は無く、瞬く間にぼくのあたまの中に造影剤が投与される。股の動脈から入った管が、細い血管を走り、心臓付近まで来ている感覚は皆無である。
 眠気が不意に襲ってきて、まぶたがゆっくりと重くなる。そんな中、微かに声が聞こえた。

「では投与始めます」

 自動車のスクラップ工場で聞くような鈍い機械音が響き渡り、一瞬意識がよみがえる。あたまの血管が膨れ上がるような感覚。得体の知れない物体が襲ってくる。
 屈折した星空が瞳の中に降って来る。

 一回、二回とそんな感覚に襲われて、怒涛の如くアンギオ検査は終わりを告げた。体力的には全然平気だったのだが、その夜、傷痕を縫っていないために、寝返りを打てない辛さの方が検査の辛さよりも何十倍も辛かった。
 ナ−スコ−ルで看護士を呼んで、枕を腰部に当ててもらう。まったく……年老いたみたいでなんか情けなかった。

 トホホ……。
 そしてこの検査を最後に、オペまでの三日間は検査も無く、ただ安静にしているだけだった。


「ごめん、省吾。その日、面接を受ける会社の説明会なんだ。だから朝は来れないよ」

 両手を合わしてあたまを下げる珠希。ぼくは仕方の無いことだからとOKと告げた。

「いいや、珠希にとって大事なことなんだから、頑張って行って来な」

「うん。ありがとう。でも終わったら即効に駆け付けるから、省吾もがんばってね」

「うん、了解」

 珠希はそう言って、ふたたびあたまを下げた。

 ぼくが珠希ならなんてやっかいな男と知り合ったんだろうと、愚痴のひとつでも言いたくなるのだが、珠希はそんな素振りをこれっぽっちも見せずに、ぼくのそばを離れようとしなかった。そしてしないでいてくれた。
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