ストレイ・キャット☆シュ-ティング・スタ-
 ストレッチャ−に寝そべり、睡眠作用のある注射を施されチクリと痛みが走る。
 オペ当日。朝一番にぼくは頭部切開手術を受ける。 ストレッチャ−の上から見た窓の外は、澄んだ青色を帯びて、白いマシュマロのような雲は空高く穏やかに浮かんで、季節は夏の足音を立てている。もしかすれば、もう二度とこの無邪気な空を見ることは無いのかと、迂闊にもぼくはこころの中で思ってしまった。

 術前の家族面談で、執刀医から言われたことばを思い出した。


 ぼくと母親は病院の面談室に入り、ふたりしてことばも無く、オペ担当の先生を待っていた。


「お待たせしました」

 その担当医は白衣をなびかせ、ふたりの助手と看護士ひとりを引き連れて、ぼくと母親の前に現れた。
 MRIのレントゲンを取り出し、オペの詳細を話し出した。ふたりの助手と看護士は担当医の説明をぼくたちと一緒に聞きながら、必死にメモを取っている。若い助手ふたりはぼくよりも五つほど年上だろうか、担当医の話しを懸命に聞き入っている。

 何度も見たけれども、ぼくの頭部レントゲン写真は、歪なほどに髄液が多くて、ちょうど大脳のど真ん中にこぶし大の影が写っている。それは漫画や写真で見たことのある大脳の写真ではなく、まったく違った写真に見えたのだ。


 病名は水頭症キアリ奇形。


 病状発覚後、最初の診断ではこの髄液の異常な多さの原因のひとつとして、小脳、大脳の下部、首とあたまの付け根にあるふたつの脳のひとつが、生まれながらに奇形で、髄液の通り道を圧迫し、大量に溜まってしまったのでは無いかとの診断であった。しかし、実際のところ、ぼくはあたまの痛みなど感じ無かったし、今も全く感じることは無かったのだ。
 そして数々の精密検査の結果、担当医が下した診断は、この髄液には異常が無く、問題は小脳の奇形。キアリ奇形という聞き慣れない病名。これに問題が有るのでは、という診断結果であった。


 症状は出ているけれども、痛みが有る訳では無い。このままオペをせずに生きていくことも充分可能だろう。しかし、医師はやってみる価値はあるという。
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