ストレイ・キャット☆シュ-ティング・スタ-
 そんなことも知らずに、ぼくは三上とのゲームでの勝敗や、妻の居ない寂しさを埋めるために、久留美に出逢ったほんの数日前まで、淫らな妄想しかあたまの中に浮かばなかったのは、本心だ。ゲームが始まって二回目の獲物がこんなにも上玉だと、こころの中で歓喜し、それを釣り上げたときの自分の満足感や欲望のはけ口の相手にしか久留美のことを思っていなくて、相手の気持ちなんか何ひとつも考えてはいなかった。
 
 久留美はぼくと同じに、神様にひとより多く荷物を持たされてこの世に生まれ落ちてきたのだ。


 ストレイ・キャット。久留美が迷子の子猫……。


 今夜の宇宙にも星の輝きは見えなかった。ぼくの瞳の中には……。


 後悔と久留美に何ひとつに出来ない今の自分。精いっぱい気持ちを自分のこころの奥底からとり出して久留美にメールを送ることしか出来ない現状に、苛立ちを覚えながらも外回りに出る。
 営業車を大通りのさくら並木に停めて、久留美にメールを送る。お節介、自己満足、色んなことばが胸の中を交差するも、この広い宇宙の中で偶然にも出逢ってしまった、ぼくと同じようにこころに傷をもつ女性。何かしてあげたいと思うのはぼくの身勝手だろうか? 
 フロントガラスにさくらの花びらが張り付くように落ちてくる。お昼時、街は昼休みの人間で溢れかえっている。この東京に何人の人間が存在するかなんてぼくは知らないけれども、ぼくや久留美と同じように、大きな荷物を抱えている人もいるのだろうか? 
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