ストレイ・キャット☆シュ-ティング・スタ-
 翌日、昼過ぎあたりに、珠希からの連絡が届いた。社長お気に入りの、からくり時計がカチカチと音をたてる店の事務所。社長はもちろん居ることはなく、先輩社員も外回り中、事務の女の子はぼくのことを気にも留めずに、フロアのカウンター内で何かを作っているみたいだ。

「もしもし」

 珠希の声が受話器に響く。前に会ったときよりも元気になったみたいだ。

「あ、省吾、ごめんね。仕事中に。今病院からなんだけども、身体、少しはマシになったんだ。だから少しは早く帰るね。そうだな、あと三日だけ実家に居ていいかな」

 三日後に珠希はマンションに帰ってくる。久留美に最後のメールを送る次の日に。

「う、うん。分かった。じゃぁその日ふたりで……、じゃなくって三人で全快祝いしようか!」

「え? 三人って」

「お腹の子供だよ(笑)」

「あ、そうだね! 三人だ。そして一年もしない間に本当に三人になるんだね」

 夫婦らしい会話。そうだ、ぼくには妻が居るんだ。久留美にも相手が居る。ふたりの出逢いと別れはサイトという空間の中だけでいいんだ、と事務所の中、自分にいい聞かせた。

「柏原さん、珈琲飲みます?」

 事務の女の子に妻との会話を聞かれたかと心配したがその気配はなく、何気に暇そうなぼくに、珈琲を立ててくれた。

「ありがとう!」

 ぼくが満足そうにそういうと、女の子はニヤけた顔でいった。

「奥さん、帰って来るんですね(笑)」

 どうやらぼくの予想とはうらはらに、珠希との会話を全部聞かれていたみたいだ……。


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