ストレイ・キャット☆シュ-ティング・スタ-
 ぼくはその日の夕方、自宅近くに在る眼科医に足を運んだ。

 何年間も星の輝きが見えない自分の視力の異常を、ぼくは初めて医者に診察してもらうことにしたのだ。

 なぜそんなことを思ったのかは、自分でも解らずにいたけれども、久留美との別れが近付くにつれて、もう一度、身体の異変と向き合おうと思っていた。

 待合室には子供から大人まで、たくさんの患者が待っている。
 ぼくはスーツ姿のまま、待合の長イスに腰掛ける。隣には年老いた女性が、自分の順番を今か今かと待ちわびている。ぼくはネクタイを緩めて、カッターシャツのボタンをひとつ外した。

(このようすじゃ、一時間くらい待たないといけないなぁ……)

 壁に掛けられた大きな時計に目をやり、待合室に常備されている雑誌を手に取って、その退屈な時間を潰した。
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