ストレイ・キャット☆シュ-ティング・スタ-
「柏原さん、何か大きな病気や、事故などに遭われたことはありますか?」

 ぼくは眩しさに目を細めながら、身体の障害を先生に話した。

「ほう……そんな大きな手術を以前されていたんですか。それは大変でしたね」

 そういって先生は腕を組み、ふたたび考え込んだ。

「星の光りだけが見えない……。もしかすればその障害のショックから、突発性に視力異常をきたしてしまったのかも知れないですね……」

「突発性ということは、治療法はないということですか?」

 先生はぼくにひとつのスライドを見せ、説明を始めた。

「目には二つの視細胞がありまして、昼間に働く「針状体」と暗いときに働く「杆状体」というものがあります」

「針状体と杆状体?」

「そうです。針状体は、色の区別も出来て細かい物まで見ることが出来ます。それに対して杆状体というものは、分解能力も良くないうえに色も区別出来ません。星を見るというのは、主に杆状体が主役となって働きます」

「……」

 難しい説明を聞いて、ぼくは混乱するばかり。先生は説明を続ける。

「感度は抜群ですが、星の色がハッキリしないというのは、この細胞のせいなのですよ」

「それでぼくの症状は……」

「詳しくは解りかねますが、その細胞の一部分が何らかの刺激を受け欠落してしまったのではないですか」

「直らない、ですか?」

 年老いた先生は、ゆっくりうなずきながらいった。

「そうですね……。今のところわたしには解らない……。もしよろしければ、知り合いの医師が在籍している大きな病院を紹介しますが」

 先生は申し訳なさそうに、ぼくにそういった。

「奇跡が起こるのを待つしかないということですね」

「奇跡……、人間には未だに解りかねることが多いです。現代の医学では身体の宇宙を全て理解するというのは、不可能ですから。柏原さんの症状も、明日改善する可能性がないわけではありません」

 ぼくは意を決したように、力強くいった。

「わかりました。紹介はいいです。ぼくは奇跡が起こることを待ち望みます。どうもありがとうございました」
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