ストレイ・キャット☆シュ-ティング・スタ-
 丁寧にお辞儀をして、ぼくは診察室をあとにした。

 眼科医を出ると、薄紫の夜空が広がっていた。

「見えないなぁ、星の光りだけ」

 風が舞う春の夜に、ぼくは不思議なこの身体をなぜだか愛しく思った。

『え~……。ショーゴ君からのメール楽しみにしてたんだよ! そんなのズルいよ。でもね、今は、今は恋愛とかは考えられないよ。ごめん。でもショーゴ君からのメールが来なくなるのは寂しいよ。』

 久留美からのメールが来ていた。ぼくはそのメールの内容を見てふたたび、ひとりのリビングであたまを悩ましていた。

「そんなこというなよ」

 久留美なりの気遣いなのか、そのメールには諦めた男へのやさしさが見え隠れしていた。

「……」

 気持に嘘をついている自分。やっぱり久留美に惹かれている。女としてなのか、ひとりの人間としてなのか、久留美でいっぱいになっている自分自身。

「でも……、でも駄目だよ。こんな気持ちで、久留美ちゃんにこのままメールを送り続けたら」

 ぼくは、自分の気持ちを胸の中のポケットに忍ばせて、今のテンションの裏側で久留美にメールを送った。

『久留美ちゃんありがとう。そういってもらえるのは、本当にうれしいです。でも……苦しいよ。これ以上、メールを続けていくのは。』

 中途半端なメールを久留美に送りつけて、ぼくは星の見えない夜空を見上げながら、迷子の子猫、ストレイ・キャットを想った。


 その日、久留美からのメールは返って来なかった。


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