上弦の月
レストランに着くと相手の方はもう着いてるらしかった。
店員さんに個室に案内されてパパが「失礼します」とだけ言って中に入った。
わたしもそれにつられ、お辞儀をしてから席についた。
少し緊張していて前を向けなかったが、相手の方が「こんにちは」と挨拶をしてくれたので顔をあげた。
とても優しくて聞き覚えのある声だった。
「…あ」
びっくりして小さな声が漏れた。
新庄さんだ。
お見合いパーティーでわたしのことを助けてくれた彼だ。
「柚ちゃん、久しぶりだね。覚えてないかな?」
「あんなに小さかったんだもの覚えてるはずないでしょ、あなた」
そうだね、と小さく笑い合う彼のご両親。
一体どう言うこと?
「柚月さっき言ったと思うけど昔からの知り合いなんだよ、お前が3歳のときに1度あったこたがあるんだ」
「そうなんだ。全然覚えてないや」
1度にいろんな偶然があってわけがわからないままのわたしをよそに、次々とご飯が運ばれて来た。
口に運んでいるが味はしない。
話を聞いて質問に答えているつもりでも頭にはまるっきり入ってこない。
すると彼のご両親が「じゃあそろそろ私たちは」と、お見合いのお決まりのパターンで退室して行った。
静かな空間に2人だけが取り残された。
「俺とお見合い嫌だった?」
「あ、いや…そう言うわけじゃなくて。お見合いパーティーにいったのは小さな抵抗というか…」
「俺も、そうなんだけどね」
「え?」
なんだ、新庄さんもわたしと同じなんだ。