上弦の月
私の目の前にある握りこぶしは今にも顔面に当たりそうなのにそこだけなぜかスローモーションに見えた。
頭の中はパニックなのに、かすかに逃げなきゃ!という本能が働いた。
向きを変えて急いで来た道を走った。
「きゃ、やめて!来ないで!!」
できる限りの声を出して私は走った。
なのに、あいつは追いかけてきた。
目は見開かれていて、なにを考えて私を襲っているのか全くわからない。
そこにちょうど声に気づいたパトロール中の警察の人が通りかかった。
私は素直に助かったと、思った。
「どうしたの?」
「へ、変な人に襲われそうになって!」
「え?どこ?」
私が指差した方にはそいつの姿はもうなかった。
なに、なんだったの?
「とりあえず署で話を聞こうか」
「はい…」