Crescent
そう言ったものの知らないフリをされて、暫く歩くと見覚えのある坂道が見えて来た。
坂道を歩いて家の手前まで来て、やっと手を放してもらった。
「ここまで来れば大丈夫だろう」
そう言って私を見た澤野さんはいたずらっ子のように笑っていた。
結局また送ってもらってしまった。
「子供扱いは止めて下さい」
「してないよ」
笑っていたのに急に真顔で私の前に立った。
「……琴音ちゃんから甘い香りがする」
「えっ…」
澤野さんの手がそっと髪に触れた。
「あの……澤野さん?」
澤野さんの顔が近づいてきて。
この体勢ってまさか……。
えっ?ええっ……、こ、困るよ…ッ。
「ちょっとっ、待ってっ……」
「髪の毛に葉っぱが付いてた」
はあ?
「……葉っぱ?」
パチパチと目を瞬かせている間に、澤野さんは私から手を離した。
「さぁ、琴音ちゃん。冷えてきたし家の中に入りな」
澤野さんはクスりと笑み、そう言うと坂道を下って行った。