君と私を、夜空から三日月が見てる
                 ☆

体力仕事が基本の慣れない職場、清掃部門。
掃き溜めと呼ばれるそこに配属されて、二日目。
相変わらず、なんでこんなとこに!!って思ってるけど、仕事は仕事。
私は、清掃控え室の前で深呼吸して、ドアノブを回した。

「おはようございます!」

「おはようございまーす」

デスクの椅子に座って、ノートPCを操作していた柿坂君が、なんだか眠そうな顔をして私を振り返る。
前髪から覗くミステリアスな瞳が、眠気のせいかわずかに潤んでいて、なんだか・・・すごく、色っぽい!
無駄に顔が良いだけに、ちょっとした仕草ですらどきっとするとか、ほんと、顔が良いって得だと思う・・・
書類らしきものをプリントアウトしながら、柿坂君は、昨日のように光沢度測定器を手にとると、立ち上がってゆっくりと私のほうへ歩いてきた。

「・・・長谷川さん、光沢度測ってきてください」

柿坂君は私の目の前に立ってそう 言うと、まるで力が抜けたみたいにパイプ椅子に座った。

「どうしたの?大丈夫?」

私は、彼が握ったままの光沢度測定器を受け取って、やたらと眠そうなその顔を覗きこむ。
柿坂君は、棚に頭をもたれかけるようにして、長い前髪の隙間から、眠そうに潤むミステリアスな瞳を私に向けた。
不覚にも、その視線にどきってしてしまう。


「報告書作成が・・・終わらなくて・・・
昨夜徹夜・・・だた・・・
また、ボスと警備さんに怒ら・・・れ・・・・」

そこまで言った柿坂君の瞼が、ゆっくり閉じる。
男のくせに、私なんかより睫毛が長い。
なんだか悔しいって思った時、私の耳には、静かな寝息が聞こえてきたのだ。

「あれ?柿坂くん?ちょっと、まさかこんな所で寝る気?!
ちょっと!起きてよ!柿坂君!」

柿坂君は、そんな私の呼び掛けにも、全く無反応。
ただ、ひたすら気持ちよさそうな寝息がだけ が、私の耳に響いてくるばかり。

やだ、この子ほんとに寝ちゃった!

パイプ椅子に座ったまま、床に投げ出された 長い足。
女の子みたいに綺麗な頬に貼り付いた柔らかい癖毛。
前髪の下で伏せられた長い睫毛が、この人の美形っぷりを更に引き立てているみたい。
顔が良いってほんと得だよね・・・
そんなことを思いつつ、私は、柿坂君の寝顔に見惚れてしまったのだ。

今朝、あんな変な夢を見ちゃったから、なんだか急にどきどきしてきた!
もぉ、私ってば、欲求不満のおばさんみたい!

そう思って自分にげんなりした時だった、ガチャっとドアノブが回る音がして、清掃控え室に誰かが無言で入ってきたのだ。

「 ?」

私は、きょとんとドアを振り返る。








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