君と私を、夜空から三日月が見てる
声をかけた私を、『ボス』はちらっと見ると、視線だけをこっちに向けた姿勢で、私の言葉を遮るように低く言う。

「長谷川 朝香くん、会議が終り次第連絡するので、あとで柿坂とモールゾーン事務局にくるように」

まったく笑わないイケメン、しかも無表情
その上、声が低い。

この人、カッコイイけどほんとに怖いよぉ・・・・!

思わずびくついた私の前でくるっと体を反転させて、『ボス』はゆっくりドアを出て行く。
そんな彼の背中を、びくつきながら目で追った私。
ドアの向こう側にその背中が消えかけた時、突然、彼が一瞬足を止めて私を振り返る。

「・・・っ?」

私はきょとんとそんな彼の顔を見つめてしまう。
『ボス』と呼ばれる彼の、その知的な唇が、小さく笑った。

「!?」

そのまま何も言わずに、『ボス』は、肩にひっかけたウィンドブレーカーを揺らして、ドアの向こうに姿を消した。

何・・・今の笑顔!?
やばい・・・あの人、怖いけどやっぱりカッコイイ!

はっ!?
まるでミーハーなおばさんのようなことを思ってしまった!!!

私は我に返って、隣のほうであくびをしてる柿坂君に振り返る。
そして、思わず聞いてしまった。

「今の・・・誰?」

すると、柿坂君は、眠たそうな目をこすりながら寝ぼけた声で答えたのだ。

「あれは~・・・・ボスの東郷(とうごう)です」

「ボ・・・・ス?」

「うーん、つまりですね・・・
清掃部門の一番偉い人で、俺らの上司・・・というか、飼い主」

「飼い主?!
っていうか、一番偉い人!?
だって、あの人も若いよね?!
まだ30歳ぐらいだったよね?!
事務局の一番偉い人の局長とかおじさんだよもう?!」

「そうそう。
だいたいどこの部門のボスもおじさんとかおばさんだけど、清掃のボスは東郷さん。
33歳って言ってた気がする。
他の部門がどういうシステムになってるか俺は知らないけどさ、清掃は独自の指示管理系統で動いてるんだってさ。
東郷さんがそう言ってたよ。
いつもあの調子なんで、うちのショッピングモールの権力者の方々といつもサシで喧嘩してる」

「えぇ・・・!?
け、権力者と喧嘩・・・?!」













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