君と私を、夜空から三日月が見てる
コーヒーを飲みながら、さして深刻そうでもなく、柿坂君は言葉を続ける。

「それで、その子のことは気に入ってたし、話も面白いし、なんか色んな価値観も合うから、じゃあ付き合ってみようかな~って思って」

「うん、付き合ってみた?」

「うん・・・そしたらさ」

「うん」

「ある日、店のHPの掲示板にさ、俺の彼女の悪口がすげー数書かれてて」

「えぇ!?なにそれ!?」

「えんこーしてるとか、男好きな女で子供をオロシまくったとか、客に体売ってもの買わせてるとか、そんなアホみたいなこと、ずらーって」

「うわぁ・・・最悪だねそれ」

「うん。とりあえず店長がそういうの全部削除して、IPからブロックしたんけど、なんか全然止まなくて、結局掲示板さげたんだ」

「そうなるよね・・・普通に」

「うん。
そんなこと書かれて、彼女すげーショック受けてたけど、とりあえず、掲示板さげればなんとかなるかなって思ってたら・・・甘くて」

「えぇ!?」

「今度は、彼女のスマホに直接おかしな電話とかメールとかLINEとか入るようになって」

「ちょ・・・なにそれ怖い!」

「それで彼女、鬱っぽくなっちゃってさ、結局店やめて、俺とも別れて・・・」

「うん」

「そしたら嘘みたいに嫌がらせが止んだらしくて」

「はぁ!?」

「ひどいっしょ?」

「ひどいそれ!それでどうしたの?!」

私は、その話を聞いて、当時の柿坂君の彼女に嫌がらせをした相手にイライラして、思わず眉間を寄せてしまう。
柿坂君は、そんな私とは対照的に、なんだか淡々と話を続ける。

「まぁ、もうそれで、なんとなくというか・・・誰がそんなことしたかわかって」

「それ、最初に告ってきた子だよね?犯人?」

「うん、結局そうで。なんか面倒になって、俺も店やめたんだ」

「うーん・・・・そうしたくなるのも、無理ないかも」

「で・・・その騒動はそこで終わったんだけど、とりあえず、働かないといけないから、今度はレンタル屋で仕事し始めたんだ」

「うん」

「そしたらそこで、常連客だった、2歳上の女から声かけられて・・・一緒に遊びにいこうって」

「うんうん」

「別にそういうのあんま気にしないし、いいですよって言って、休みの日に普通に遊び行ったんだ」

「うん」

「そこから何度か遊びにいって」

「うん」

「だからって、別にえっちーことしてた訳でもなく、ほんとに普通にカラオケ行ったりしてたんだ」

「う・・・うん」

「で・・・・ある日告られて」

「ああ・・・・もうさすがだね!
それでどうしたの?」

「それで・・・」

そこまで話して、柿坂君は、大きくため息を吐く。

「はぁ・・・・」

「ど、どした、の?」

「いや、思い出してブルーになってきた・・・」

そう言って、彼は倒れこむようにカーペットの上に横になる。
その髪の毛が、床に手をついてた私の指先にふわっと触れて、私は、またしてもどきっとしてしまう。








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