君と私を、夜空から三日月が見てる
なんだか眠そうに目を細めながら、カーペットに倒れこんだ柿坂君は声のトーンを落としながら言葉を続ける。

「スポーツ店事件のこともあるし、なんか、誰か特定の女と付き合うとかなんとなく抵抗あって、断ったんだ。
常連さんなのは知ってたんだけど、それとこれとは話は別だしって」

「うん・・・確かに話は別だね」

「だよね」

「うんうん、それで、また何かあったの?」

私がそう聞くと、柿坂君は、はぁ・・・っと大きくため息をついて、長い睫毛を伏せる。

「断ったときは、すんなり引いてくれたんだけど・・・・それから一週間ぐらい経って」

「うん・・・」

「レンタル屋の店長に呼び出されてさ、何かと思ったら」

「なんだったの?」

「いきなり、『おまえのような奴を雇っておけないって』・・・言われた」

「なんで!?」

「なんか・・・その常連が、多分腹いせだと思うんだけど・・・
『俺にレイプされそうになった!!!訴えてやる!!!』って、店長に言ってきたんだって」

「はぁぁぁ!?」

「・・・・・俺、そんなことしてないし・・・」

「なにそれひどいっ!」

私、この人と出会ってまだ期間は短いけど、でも・・・
この子はそんなことするような子じゃないって、私の女としての本能がそう言ってる。
なんか、すごく可哀想になってきた・・・
顔がいいのも、良い事ばっかりじゃないんだね・・・
なんだか、気の毒になって、思わず、彼の頭をナデナデしそうになり、私ははっと手を止めた。
思わず手をひっこめた私に気づくこともなく、柿坂君は、もう一度大きくため息をついて、続きを話しはじめる。

「ひどいっていうか・・・・・もう、女怖い。
なんで、付き合えないって言っただけで、そんなことするのか、俺、理解不能だし。
俺、店長に、女の子レイプしようとするとか、そんなこと絶対してませんって言ったけど、なんか信じてくれそうになくてさ。
嫌になってレンタル屋もやめた」

「それも・・・当然かも。
きっついね・・・それ・・・ほんと」

「でも、これにもまだ続きがあって」

「え?!まだあるの!?」

「うん・・・
俺の家は母子家庭で、ずっとアパート暮らしで、かーちゃんは今、住み込みの仕事してるから、高校まで住んでたアパートは引き払ってるし、帰る場所ってなくて。
だから、仕事やめると家賃とか払えなくなるし、どうしても仕事は見つけないといけないからさ、当時住んでたアパートで仕事探してたんだ、PC使って」

「うんうん」

何この子、偉い!
まだこんな歳なのに!
うちの元彼ですら実家に世話になってたのに、ちゃんと自活する努力してる!
私は、素で関心してしまった。
柿坂君の話は続く。

「そしたら、いきなり呼び鈴が鳴って、玄関開けたら・・・その常連客が立ってたんだ」

「えぇぇ!??どうして!?」






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