君と私を、夜空から三日月が見てる
少なくとも、私は、高田さんよりは5年以上長生きしてる。
その分、変なとこで冷静なのは、つまり、人生経験という名の貴重な経験値のなせる技。
激昂する彼女とは対照的に、私は、きわめて冷静に言葉を続けた。

「ありえないもなにも・・・
柿坂君の車がガス欠しただけなんで・・・
それで迎えにいってあげただけなんで・・・
それが一体どうしたっていうんでしょうか?」

「おばさんの車で柿坂君が出勤してくるとか!ない!絶対ない!!」

「・・・・・」

もしかして、この子・・・・見た目が可愛いってだけで、馬鹿なの???
女性不信気味の柿坂君は、本能的に、こういうのを見抜いてたんだね。
っていうか、この子、見た目はこんなに可愛いのに、顔が良いだけじゃカバーできないこともあるんだ・・・

私は、柿坂君の勘の良さに関心した後、高田さんの馬鹿さ加減に驚嘆し、いっそこのどストレートさが素晴らしいとかって思ってしまっていた。

「まぁ・・・
ない、と思うなら、そう思ってていいんではないでしょうか???
すいません、仕事あるんで失礼します」

そう言った私を、ますます怖い目つきで睨みつける高田さん。
正直、こんなの相手にしてる暇なんてないんで、私は、そんな彼女をガン無視して、さっさと従業員トイレを出ていってみた。

私ってば、すごい大人やん!!!!

そう自画自賛した私が向うのは、2Fの従業員トイレ。
清掃用具を入れたバケツを持って、今日は朝から従業員トイレ清掃が与えられた任務。
清掃業務って結構大変なんで、馬鹿を相手にしてる暇なんてないんです!!

そんなこんなで、清掃部門に移動になってから、まもなく一週間。
体力仕事にもちょっとずつ慣れてきて、思いのほか体を動かす業務だったし、いっそダイエットでもしてしまおうと心機一転した私。
そんな私に敵はない!

でも・・・
今日は・・・
移動してきてからずっと同じ時間帯勤務だった柿坂君が、閉店までの就業の遅番に入り、初めての別勤務だから、ちょっとだけ不安だったりしてる。
慣れない業務だから、何かあったときにすぐに頼れる人がいないって、結構不安だもん。
昨日、柿坂君が、「何かあったらPHSからボスに電話してみて」なんて言ってたけど、些細な用事で清掃部門総マネージャーに電話するとか、なんか、すごーく恐れ多い気がする。

なんにもないことを願って、私は、バックヤードの荷物搬入搬出用エレベーターで2Fのバックヤードへと向った。











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