君と私を、夜空から三日月が見てる
東郷さんは、再び冷静沈着な鉄面顔に戻ってPHSに出る。

「はい、清掃部門東郷です」

なにやら、PHSの相手はモール事務局の誰かみたいだ。
東郷さんは、ちょっとだけいかめしい顔つきをすると、「すぐに戻ります」といってPHSを切った。

「なかなかゆっくり、コーヒーも飲んでられないな」

「お忙しそうですね?」

「まぁね、日々、色んな人間と戦うのも俺の役目だ」

「ほんとにお疲れさまです。今日はありがとうごさいました。
柿坂くんもいなくて、一人であの惨状をどう綺麗にしようかと途方にくれてたんです・・・」

「後でもっと詳しく、あいつに指導してもらうといいさ、じゃあ」

「はいっ!ありがとうございました!」

そう言ってぺこっと頭を下げた私。
ふと、顔を上げると、いかめしいボスの顔が、やけに穏やかに微笑していた。
そして、なぜかすっとボスの手が伸びてきて、突然、私の頭を2~3回ナデナデしたのだ!
その瞬間、自分の顔が一気に赤くなったのを感じた!

「なぁ・・・・っ」

「ああ・・・すまん、セクハラっていうなよ。
犬みたいだったから、ついな」

そう言って、東郷さんはクールな顔つきに戻ると、すっと私に背中を向けてモールゾーンへ続く通路へと戻っていったのだった。

後には、顔を真っ赤したままの私だけがぽつんとそこに取り残されてしまった。

「ちょ・・・ちょー・・・・犬みたい言われた・・・・
な、なんなの・・・・!?」

もう!
なんだか恥ずかしいじゃない!!!?
あのナデナデには、ほかになんの意味もなかったんだよね!?
あの鉄面顔の彼が、ナデナデとか!!!!!

訳がわからず一人で動揺した私。
ぽかーんとしていると、今度は、後ろのほうからこつんって後頭部を誰かに突かれて、はっと後ろを振り返る。

「あれ・・・・!?」

「おはよーございます」

見上げる長身。
少し長めで、ふわっとした癖毛の髪とその前髪から覗く奥二重の切れ長でミステリアスな瞳。
突然そこに現れたのは・・・
そう・・・
私の事実上の上司にして、6才も下の青年、柿坂 海里くんだったのだ。

「どうしたの!?出勤早くない!?」

驚いてそう聞いた私に、柿坂君は、まだ眠たそうな表情のままゆったりと答えたのだ。

「報告書の続きが終わってなかったのを思い出して・・・ちょっと早めにきてみました~」

彼はそう言うと、なんとなく意味ありげな視線で、私の顔をじーっと見つめすえたのだった。
ミステリアスなその綺麗な瞳で見つめられたら・・・

また私の心臓は、どきどきしちゃうじゃないよ!!!
もう、清掃部門のイケメンどもは一体なんなの!!?
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