君と私を、夜空から三日月が見てる
柿坂君は、小さくふぅっと息を吐くと、私の隣をすり抜けながら言うのだった。

「ボス、めったにああいう和んだ表情(かお)しないんだけどな~・・・・?」

「え?なに?今の見てたの?!」

私はきょとんとして、目の前を歩く柿坂君の広い背中を追いかける。
柿坂君は、私に背中を向けたまま言葉を続ける。

「見てました~
ある意味、新鮮な驚きを覚えた・・・」

「何?新鮮な驚きって?」

「えと・・・まぁ、こういったら何ですが、ボスも、あんまり女にはいい思い出がないらしく」

「え?!そうなの!?見るからにモテそうだけど!?」

「モテますよ?」

柿坂君はあっさりそう言った。
私の視界には、広い背中しか見えないからどんな表情をしてるのかは見えないけど、口調はいつものままだ。
彼は言葉を続ける。

「俺の知る限り、ボスに特攻していった女は、ウィルスバスターにブロックされるがごとくみんな追い払われて・・・」

「ウィルスバスターとか!!!
でも・・・・なんか、そんな気がする・・・!
ファイヤーウォール厚そう!!」

あのクールさにして、あの強面な口調だからな。
顔が良いのは確実に見とめるけど、どうにもとっつきにくい印象はあるし。
というか、なんか仕事の鬼って感じだから、あんなタイプに特攻していくとか、みんなすごーくチャレンジャーだな。
変なことに感心した私。
そんな私を、柿坂君が肩越しにちらっとみる。

「うーん・・・
そんなファイヤーウォールの持ち主だから、まさかあんな和んでるとか・・・
むしろ、俺がびっくりした・・・」

その言葉と同時ぐらいに、私と柿坂君は清掃控え室にたどり着いた。

「そ、そんなに?
柿坂君が驚くとか・・・!
っていうか、どんだけあの人は笑わないの?」

しみじみそんなことを聞いた私を、PCの前で立ち止まった柿坂君が突然くるっと背中を返して振り返る。
無防備だった私の目の前に、柿坂君の首筋。
引き締まった筋肉の流れが見て取れる首元が・・・なんか、いつにもまして色っぽい。
そんなことを思っている自分に、私はまたしてもがっかりする。

ああ・・・私、ほんとにもう・・・
欲求不満なのかな・・・・?!

そんな私を、柿坂君が急に呼ぶ。

「長谷川さん」

私は顔を赤くしてびくっと肩を揺らしてしまう。

「は、はい!」

「長谷川さんは、ボスをどう思う?」

「え・・・??
なにそれ、どういうこと??」

唐突な質問に、私は思わずきょとんとしてしまう。

「うーん・・・言葉のままなんだけど・・・
ボスみたいな男は、やっぱ女の子には好かれると思う?」

「は、はい・・・?」

なんだか妙に真面目な顔をして、突拍子もないことを聞いてきた柿坂君の意図がどうにもわからないので、私は思わず目をぱちぱちしてしまう。






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