君と私を、夜空から三日月が見てる
10秒ほど考えて、私はこう答えた。

「ボスはイケメンだし、すごーく仕事できそうだし、お金も持ってそうだし、かなりレベルは高いとは思う・・・
けど!
そんなのは絶対好みの問題だと思う・・・!
私は、ボスみたいなタイプ嫌いじゃないけど、彼氏にはしたくないな」

「え?なんで?」

今度は、柿坂君がきょとんと不思議そうな顔をしたので、なんだか、偉そうにおねーさんぶりたくなって、私は言葉通り偉そうにこう言ったのだ。

「だってさ、あれだけ仕事できそうな人だもん、絶対、女より仕事ってなりそうだし。
例えば、自分がたいして忙しくもないけど、彼氏だけ忙しいとか、私的には負けた気分でなんか悔しいし。
そうやって離れてる間に、職場にいる女の子がアプローチしてても私は気づけない訳だし。
絶対相容れないと思うからかな?」

「・・・・・・」

はっきりそう言い切った私を、柿坂君が、なんだか関心したような眼差しで見つめてくる。
二、三度ぱちぱちと瞬きした柿坂君が、どこかほっとしたような表情になってあどけなく笑った。

「・・・・長谷川さん、思ったより大人の女だね?」

「思ったよりってなによ~?失礼だな!」

「え~!褒めただけなんだけどな~?」

「褒め言葉じゃないよそれ!」

「そうかな?」

そう言って、柿坂君はあははって笑うと、言葉を続ける。

「きっと、長谷川さんがそんなタイプだから、ボスも安心して和めたんだな~っと思って」

「え~?なにそれ?」

「うーん・・・だいたい、ボスに特攻していく人は、ボスのあのイメージだけに惚れて特攻していってるみたいで。
構ってください守ってください的なオーラをがんがん出すから、そういうの出されるたびに機嫌悪くなるんだよね、ボス。
女の子らしい女の子がすっげー嫌いみたいだから、うっとうしい?って前に言ってた気が」

「うっとうしいんだ・・・ああ、でも、あんまり構ってちゃんだと確かにうっとうしいと思われるかもね」

「うん。その点長谷川さんは、女らしくないから」

「はい!?」

私をわが耳を疑って、思わず柿坂君の顔をガン見した。

今、この子、確かに私を・・・
女らしくないっていいましたよね?
絶対いいましたよね!?
確実にいいましたよね!!?

むかっとして眉間を寄せた私。
それに気づいて、柿坂君は、はっとした。

「あ・・・えと、変な意味じゃなくて・・・
うんと~・・・言葉通り?」

「はぁぁ!?」

「あれ?そういうんじゃなかったっけ?
えっと、うんと・・・その・・・なんだっけ、言葉のままじゃなくて・・・えっと」

なんだか珍しく、しどろもどろになった柿坂君は、ますます私の怒りの墓穴を掘って行く。
妙に冷静で冷めた顔つきになっていく私を見て、さすがにまずいと思ったらしく、柿坂君は、綺麗な顔を満面の苦笑で満たしたのだった。

「だからその・・・絶対、悪い意味で言った訳じゃないから・・・!」

「はいはいはいはい、どうせ私は女らしくないです。
わかってます。
なんていっても、『おまえは一人でなんでもできるだろ?』って言われて振られた女ですから・・・!」

「あああ・・・・・・」

ますます困った顔になる柿坂君。
私は、大人げなく唇を尖らせながら、次の仕事に向おうと、棚にある雑巾を取り出した。
その時だった。
不意に、困ったように笑った柿坂君が、その大きな手を、ふっと私の元へと伸ばしてきたのだった。
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