君と私を、夜空から三日月が見てる
縦長な作りの清掃控え室は、思ったよりきちんと整頓されていた。
デスクにはノートPC、その隣に流し台。
棚にはずらっと書類が並んでいて、壁際には、休憩用なのかパイプ椅子が4つほど置かれている。
入り口の傍のラックには、清掃に使うものだろう見たことのないスプレー缶が何本もある。
私は、ため息をつきながら、清掃部門には極めて不釣合いなルックスを持つ彼の背中をしみじみ見つめてしまった。

「あ、そだ・・・
俺、柿坂 海里(かきさか かいり)っていいます。
これでも一応、ここの責任者なんでよろしく」

作業服の広い背中が、急にくるっと反転した。

「!?」

ぼーっとしていた私はハッとする。
グレーの作業服の胸元から、紺色のTシャツの襟が見えた。
私の視線は、長身な彼の喉元あたりで止まるから、思わず顔を上げる。

「あ・・・は、はい、よろしく・・・お願いしま、す」

高い位置から、ミステリアスな瞳が私の顔を見てる。
その視線にどきっとして、意味もなく、顔が熱くなってしまった。

明らかに5才は年下だろうこの人に、こんなにどきっとするなんて・・・なんか、不覚!

だからそれを隠すように私は、ぶっきらぼうにこういった。

「私、清掃に柿坂くんみたいな人いるって知らなかった。
責任者って・・・まだ、若いよね?今いくつ?」

「え?22」

「は・・・?!
何それ、ホント若すぎ!!!」

若いと思ったけど、まさか・・・5才どころか6才も若かった!!
驚いて目をぱちぱちする私。
そんな私を、なんだか面白いものを見るような目で、柿坂君が見てる。

「うんと、長谷川さんは経理からきたんだっけ?」

「う・・・うん」

「経理じゃ出勤時間も違うし、俺らはバックヤードや事務局の清掃には入らないから、会ったことなんかなかったかもね」

そう言って、彼はデスクの上のノートPCに視線を向けて、ワードを立ち上げる。
ネームプレートのひな型に『長谷川』と打ち込んで、それをプリントアウト。
さりげなく前髪をかき上げる長い指先・・・
整った鼻筋が、すごく・・・綺麗で、私は、思わず、そんな彼の横顔に見惚れてしまった。


なんだろう・・・
やっぱり・・・
この子の顔・・・
どこかで見たことがある・・・
どこで見たんだっけ・・・・?
思い出せないな・・・

「長谷川さん」

「!?
・・・・・・は、はい!」

急に名前を呼ばれて、自分でも驚くほど大きな声で返事をしてまった!
なにこれ恥ずかしい!!!
あまりにも私の声が大きかったんで、柿坂君はきょとんとしてる。
やばい・・・不覚うぅぅ!



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