君と私を、夜空から三日月が見てる
「おい!こらっ!何やってんだっ!!!?」

ものすごい怒声が辺りに響きわたると同時に、慌しい足音が三つ、エレベーターホールのほうから聞こえてきて、私はハッとした。
涙目になった私の視界に飛び込んできたのは、それこそ人殺しでもしそうなほど怖い顔をした柿坂君と、二人の警備員さんだったのだ。

私を押さえつけていた男が、慌てて逃げようとする。
その襟首を柿坂君の手ががしっと掴んで、その勢いのまま思いきり男の体を壁に叩き付けた。
「ぐへっ!」とかなんとかっていう奇妙な声を上げて、男がその場に崩れ落ちる。
そこに二人の警備員さんが駆け寄ってきて、しっかり両脇を抱えて押さえつけたのだった。
柿坂君は、見たこともないような激しい形相で警備さん達に言う。

「はやくその馬鹿連れていって!警察に連絡を!」

警備さん達は男を抱えるようにして、一人の警備さんが無線で警備室に警察の出動を要請する。

「ちょっと警備室まできてもらうよ!」

強面の若い警備さんがそう言うと、男は観念したようにがっくりと首を垂れてエレベーターホールへと引きずられていった。

「長谷川さん!!大丈夫!!!?」

私は、床に倒れこんだまま呆然として、目の前に現れた柿坂君の険しい顔を見上げていた。

その時始めて気づいた・・・
足も腕もガクガクと震えて、私、起き上がることが出来ない・・・っ!

体も震えて、まったく震えが止まらない。

や、やばい・・・
思ったより・・・
ダメージ大きかった・・・・

柿坂君の大きな腕が、何も言えずに震える私を、抱きかかえるようにして起こしてくれた。
ふわっとした癖毛の前髪から、彼のミステリアスな瞳が心配そうに私を見つめる。

「長谷川さん?大丈夫?なんかされたの?平気?」

私は、そう聞かれて、やっと言葉を口にできた。

「だ・・・だい、じょうぶ・・・
倒されただけで・・・なにも・・・
されてない・・・」

そう言った自分の声が震えてる。

ああ・・・
ダメだ・・・
どうやら、私、ものすごーーーーーーーーーく怖かったみたい・・・
それに今さら気づいてしまった・・・

そんな私をまっすぐで純粋な眼差しで見つめたまま、柿坂君は言う。

「警備室に日報届けにいったら、監視カメラに、長谷川さんをつけるようにしてるあの男が映ってて、やばいと思って急いで来てみたんだ・・・
やっぱ、他の仕事やってもらうべきだった・・・
ごめんね・・・」

「ん・・・大丈夫、柿坂君は何も悪くないよ・・・大丈夫。
だって私が、やるっていったんだもん」

そう言って笑おうとしたのに、笑えず、なぜか私、今にも泣きそうになってきた!
目に一杯涙が溜まってくるのがわかる。
その瞬間、柿坂君がハッとした。
私の両肩に手を起きながら、困ったようにしかめた表情をしながら、その整った綺麗な顔を私の顔に近づけてきた。

「ああ・・・っ!
もう、ほんとごめん!泣かないでっ!」

「な・・・泣いてない・・・っ!」

私はつい癖でそう答えた。
でも、自分でもわかってるんだ・・・

私は今、とっても泣きそうになってるって!!!!


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