君と私を、夜空から三日月が見てる
               ☆
センチメンタルに落ち込んでる暇があるなら、仕事しろ!!!!!!
自分で自分にそう言い聞かせて、あの夜から更に一週間、私はひたすら清掃の仕事を覚える努力をした。

ぴっかぴかにトイレの洗面台を磨き!
鏡を磨き!
便器を磨き!
床を磨き!
消臭用のお利口さんな菌たちを愛情をこめて繁殖させながら、お掃除のプロを目指して頑張ってみた!!!


誰も褒めてくれないから自分で自分を褒めよう・・・

私ってすご―――――――――――――く健気!!!!!!!
偉いぞ私!!!!!!!


売り場の車椅子トイレの鏡を専用クロスで磨きながら、そんなことを思ってる自分が、ちょっと虚しかった。
私は思わずため息をついて、鏡を磨く手を止める。

あの夜から、特に何が変わったわけでもなく、柿坂君も相変わらずあんな感じだし、例の元カノという女の子もエテルノゾーンに姿を見せた様子もないし・・・
結局、私の胸の奥の下とか脇とかが、もやもやちくちくするのは、所詮私の勝手な訳だし、そんなこと思ったってしょうがないんだよね・・・

私が、車椅子トイレの掃除を終えた時、時間は調度18時。

ああ・・・
もう終業の時間だ・・・

柿坂君は今日も残業なんだろうか?
ここ一週間、それこそ連日のように、事務作業とか特別清掃作業に追われて残業続きで、柿坂君はやけに疲れた顔をしてる。
思わず心配になるのは、別に特別な意味がある訳じゃなくて、同じ職場の者として純粋に心配なんだよね・・・

多分・・・・!

事務作業なら私のほうがプロなんだけど、特別清掃作業は私じゃできなし。
変わってあげることもできない。

そんなことを考えつつ、売り場からバックヤードに戻ろうとした時、胸のポケットで業務用PHSが鳴った。

「はい、長谷川です」

『あ、長谷川さん・・・すっげー申し訳ないんだけど、ちょっと3Fの車椅子トイレにもらって来てもらっていい?』

受話器の向こうでそう言ったのは、もちろん、柿坂君だ。

「はーい!何かあったの?」

私がそう答えると、なんだか彼は、ちょっと困ったように、しどろもどろの口調でいうのだった。

『うーん・・・・まぁ、とりあえず、お客様が困ってるみたいなんで、急いできてくれると嬉しいかも~』

お客様が・・・困ってる??

そもそも、車椅子トイレはもう清掃終わってるんで、私が清掃し終わってから、なにか問題が起きたってことかな???

私は、とりあえず、「了解」って答えると、PHSを切って3Fの車椅子トイレに向った。


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